盲目の神 – シム・シティの制作者の語る科学

「シム・シティ」の生みの親、ウィル・ライト氏。
2009年、ゲーム「SPORE」のリリースタイミングで行われたインタビューであるが、その中盤、突如「神」についての考えを語り始める。

当サイトでフォーカスしてきたアーティストは、制作過程にグリッチという手法を取り入れることで、制作者自身でも予想できない偶然性を取り入れる、というスタイルが主である。
それに対しウィル・ライト氏は、制作者自身でも制御できない宇宙を、シュミレーションゲームという計算し尽くされたプログラムの中で実現しようとしている。
グリッチアーティストとは異なる方法で作品に偶然性を内包させ、しかもその偶然は制作過程の一瞬に起きたものではなく、偶然自体が作品として(ゲームとして)存在している。
以下、CNETの記事抜粋である。


原文:http://japan.cnet.com/interview/20379112/3/

「シムシティ」も、The Simsも、そしてSPOREも、「神になる」というアイデアを軸にしているように思います。このアイデアに魅力を感じているのでしょうか。

ここでいう「神」は、若干含みのある言葉だと思います。実際、ゲームの舞台となっているのは現実世界です。そして、現実世界に対する高いレベルの支配権がプレーヤーに与えられているため、わたしたちはこのようなゲームを「ゴッドゲーム」と呼ぶことがあります。

しかし、ゲームはプレーヤーの思い通りには進まないため、プレーヤーはある意味無力であり、全能ではありません。そして、世界が予測不能であり、そこに制御不能な部分があるからこそ、ゲームが面白くなるのです。

だからわたしは、「神」はゲーム上の用語であって、プレーヤーが実際に果たす役割を指すものとしては必ずしも正確な言葉ではないと思います。

記者会見では、もし神がいるとしたらあるレベルの物理学を理解しているはずで、実際に人間もそれを利用して自分たちのコロニーを作り出すことができると思うとも述べていました。詳しく説明していただけますか。

いくつかの物理理論によると、わたしたちの宇宙でもブラックホールやビッグバンに類似した現象が存在するそうです。つまり、わたしたちの下に小宇宙が存在する可能性があり、わたしたちはブラックホールを操作し、生み出すことができるポイントを突き止められる可能性があることを意味します。これはまさにわたしたちの「下の宇宙」であり、こうした意味ではわれわれが神ということになります。したがって、われわれにとってのビッグバンを起こしたほかの知的生物が存在したということは容易に想像できることです。

しかし、だからといって神が自分の下にある宇宙と実際に接触できるわけではありません。ここでの神は実際に下の宇宙を見ることも、操作することも、そこでやり取りされている情報を得ることもできません。いわば、「盲目の神」と言えるでしょう。

それは、わたしたちがコロニーを作り出したことをわたしたち自身が気付いていないためですか。

われわれの言葉の定義によると、「universe(宇宙)」とは外からの影響を受けないものです。われわれが接触できるものであれば、それはわれわれの宇宙の一部です。宇宙の外にあるものは、永遠に知覚することはできません。そしてわたしは、多くの人にとってそれが科学と宗教を分ける境界線であると思います。知覚することができないものは、科学者の視点から見ると宗教になるのです。したがって、多くの議論では、その境界線がどこにあるのかということが論点になると思います。

しかし、純粋に物理学的な視点から言うならば、人間はいつか完全な宇宙を作り出す力を手に入れると思います。ただ、この宇宙を見たり、宇宙と接触したりすることは決してできないでしょう。

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