ピュアグリッチ vs 擬似グリッチ
グリッチの多くは、データをある環境から別の環境に移す際に起こり、ソフトウェアやハードウェアのバグによって通信失敗、変換失敗という形で起こる。Iman Moradi は、論文”Glitch Aesthetics”で、グリッチを以下の2つのカテゴリーに分類している。
- ピュアグリッチ(pure glitch):
不具合、エラーに起因する、自然発生的なデジタルの生成物
美的要素を含んでいるかどうかはわからない。
- 擬似グリッチ(glitch-alike):
ユーザーによって故意に引き起こされた結果。
グリッチアーティストはデジタルではないメディアを使って合成することもあるし、グリッチを引き起こすのに必要な状況を自ら作り出しもする。擬似グリッチとはすなわち、デジタルの生成物(ピュアグリッチ)のコレクションであり、視覚的な観点で、ピュアグリッチの特性を模写したものである。[1]
グリッチの視覚的特性
Moradiはこの論文で、グリッチに共通する特性を並べている。
- 断片化 – オリジナルの画像をパーツパーツに断片化し、変色させたり移動させる効果
- 複製/反復
- 線形性 – デジタルの特徴であるインターレースやピクセルによる効果
- 複雑性 – デジタルメディアの複雑な仕組みの表れ
グリッチの方法
自然発生(ピュアグリッチ)か、故意に引き起こされたのか(擬似グリッチ)に関わらず、グリッチを引き起こす方法は数多くある。DVDに傷をつけたり、インターネットやデジタル放送テレビのストリーミングの乱れであったり、メモリ不足によるソフトウェアのクラッシュ、デジカメなどのデバイスの不具合などこれら原因となり、スクリーンに表出される映像が化けることがある。異論はあるかもしれないが、これらの方法はレディメイドとよく似ていると見なすことができる。アーティスト、ユーザー、ハッカーは、こういった状況を故意に引き起こすことができる。デジタルファイルの中身や、もしくは実際にデバイスの電子回路をいじくることでグリッチな効果を得ることができる。
参照: circuit bending
グリッチの美学
グリッチが引き起こされた後は、(それが故意かどうかに関わらず)崩れたファイルとしてコンピューターやデバイスに読み込まれ、そのまま表現される。また、グリッチ自体をさらにいじくることもできるし(Tony (Ant) Scottの作品にあるように変色させたり)、通常のファイルとして保存することもできる。保存されたファイルは当然、プリントすることができるし、DVDなどに焼くことだって勿論できる。
Tony Scott いわく、
グリッチの美学とは、無数にある素材から何を選択し、どう弄くるかを追求することにある。[3]
以下、Tony Scottの論文抜粋である。
グリッチをジャンルとして考えた場合、そのコンセプチュアルな構造は、一つのアートの形態として見なせるだろう。しかしながら視覚的な観点、実際的な表現のされ方は、ピュアグリッチも擬似グリッチも、既成のデジタルメディアの質と同等である。グリッチは既成のメディアの内に存在しているのだが、メッセージを伝えたり、メディア自体の存在を変え得るだけの力を備えている。
ソースデータからグリッチの像が認識されるということはないだろう。
しかしそのソースが暗黙的に、もしくはきっちりとした処理されることで、グリッチのプロセスが、物体として存在できるようになる。これは特に、グリッチが単なる映像としてではなく、何か意味を伝えようとしている場合により顕著になる。その一方、擬似グリッチのアートは、”意味の伝達”を目指す必要はなく、擬似グリッチ自身の内で完結することができる。パーフェクトな通信を目指す世界においては、グリッチを排除するためだけに無数のエラーチェックプロトコルが存在しているとおりで、グリッチとは望まれざる存在である。
オーディオや映像上に、実際に何か変化を及ばすまでには至っていないグリッチが発見された場合、それは単に(コンピューターのエラーを知らせる)ログとして現れるだけであり、実際にエラーが起こる前に摘出されるであろう。日常生活における機能の欠陥や、望まれない効果の症状こそが、グリッチをアートの分野においてユニークなものたらしめている。[1]
1. Moradi, Iman. (2004) Glitch Aesthetic
http://www.oculasm.org/glitch/download/Glitch_dissertation_print_with_pics.pdf
3. Scott, Tony. (2002) Glitch on Paper http://beflix.com/gop.html